MOFF!で九州のデザインオフィスを取り上げていく「福岡オフィス図鑑」。
第6回目となる今回の取材先は、佐賀県鳥栖市にて活動する、「ITS法律事務所」。
櫻田弁護士と田中弁護士の両氏による協働事務所という形態をとっている同社。
オフィス移転にかけた思いや新オフィスでの働き方を取材してきました。
取材の冒頭から、「弁護士にとって一番大切なのは相手との信頼関係です。」と話してくれた田中弁護士。その言葉は、オフィスが相談者に対して与える影響を加味した上での言葉だ。例えばエントランス。その天井まで伸びる象徴的な鉄製の扉は木目の意匠でとても落ち着いた印象を感じさせてくれる。いざ、取っ手に手を掛けると適度な重みを感じる。不安な気持ちでやって来る依頼者に少しでも安心感と心強さを感じて貰いたいという気持ちが含まれているのだろう。そして、扉の両脇に使われているガラス部分。オフィス内の様子が見える事で少しでも気軽に入室していただきたいという思いが表れた工夫の一つだ。またITS法律事務所では、「依頼者とは直接顔を合わせて話がしたい」と言う理由から、電話のみの相談を受け付けていない。「だからこそ、このオフィスに足を運んでくれた依頼者には親身になって相談を受けたいんです。」そんな思いから、オフィスにはこの他にも小さな気遣いを感じさせる工夫が沢山あるようだ。取材前から抱いていた印象よりも、良い意味でずっと”弁護士事務所らしくない”ITS法律事務所。ますますこのオフィスへの興味が湧いてきた。
ITS法律事務所では当然ながら個人情報の管理は厳しく行っているが、かと言って壁やパーティションでスペースをガチガチに仕切ったりしている訳ではない。訪問者がエントランスの扉をくぐると右手に受付カウンターがあり、その奥に事務所スペースが広がっている。そして左手には大きな本棚が備え付けられた待合スペース。従来ならば壁やパーティションで個別の部屋として仕切ってしまいがちな空間だが、ここにはそれらを隔てる物理的な壁は存在しない。それでもそこに立ってみると、不思議とそれぞれが独立した空間といった印象を受ける。それは、例えるならば神社で神域を他のエリアと区別する為に注連縄(しめなわ)で境界を引いているのに似ている。同じブルーのカーペットが敷かれているものの、中央の通路には板張りの床が張られ天井には異なった色の塗装がされている。さらには事務所側には執務に適したホワイト系の光を放つ照明、待合側には温かみを感じさせるオレンジ系の光の照明、といった具合に廊下を境にして事務所側と待合側に見られるちょっとした差異が、意識的にも無意識的にも空間に見えない壁を作り出し、オープンなスペースに規律を生み出す事に成功している。
新しく何かを始めたり、これまでと変化をつけたりするのにオフィスの移転や改装は絶好の機会だ。まさにオフィス移転のタイミングでロゴマークを作製したITS法律事務所では、封筒や名刺といったビジネスツールのデザインも統一させた。なかでも自分の分身とも言える名刺の存在は弁護士にとって輪を掛けて重要なツール。「渡すと皆さん必ず興味を示してその場で反対の面もご覧になるんですよ」と話してくれた名刺は、片面には氏名等の情報が記載され、反対面には中央のロゴマーク以外の余白部分がブルーで全面印刷されていた。そういった小さな加工により、名刺を受け取った指先には僅かな感触の違いが残り、思わず裏返してみたくなるという訳だ。ロゴマークのモチーフは「開かれた錠前」で、オープンなスタンスでいながら相談者の秘密と法律を厳守するといった姿勢を表わしているそうだ。さらにテーマカラーであるブルーをベースにアクセントカラーのレッドが入ったこのロゴマークはオフィスの内装や家具の色使いを踏襲していると教えてくれた。
オフィスを移転するにあたっての要望に、「事務所の拡張性」を挙げていた当事務所。今後は共に働く仲間を増やし、この名刺のロゴマークを見るとすぐに「ITS法律事務所」が連想して貰える様に、地域の方や相談者の方々とより強い信頼関係を築いて行きたいと抱負を語ってくれた。
writing:石畠啓行 / photo : 松島晋也
本社:〒841-0034 佐賀県鳥栖市京町718-1 鳥栖ビル2F
TEL. 0942-48-0510 / FAX. 0942-48-0520
●所属弁護士:櫻田 康則 / 田中 芳樹 ●佐賀県弁護士会所属
■ 設計・デザイン:株式会社アドアルファ/松島 晋也